高山病は本当に怖い・・・という話

戻る
1.高山病の現実を見た!

 我々は今回久しぶりに海外旅行保険に入った。それは『高山病になったときに、万一命に関わる状態になったらチャーター便で成都なり何処なりに運ばなければならないから、その分のお金がかかるため、是非とも入れ』と言う旅行会社の進言を受け入れたから。しかしながら、この時点ではまだ高山病の真の恐ろしさについてはまだ知るよしもなかった。

 (チャーター便での救出劇)
 
第一の現実は、我々がツェタンからラサへ向かう途中で始まった。と言っても我々の一行に異変が起きたわけではない。サムイエ寺からラサへ向かう途中に、Nさんの携帯が鳴った。Nさんは本来なら、そしてその時までは実際に現地のスタッフとして我々と行動をする状況にあったのだ。我々一行には現地のチベット人ガイド、日本からの添乗員のNさん、現地スタッフのNさん、そして達人と称するIさんの豪華4人スタッフだった。で、現地スタッフのNさんの携帯の中身はその時は知るよしもなかったが、冗談を言い交わしていた彼の顔から笑みが消えた。もちろん後から分ったことだが、それは先に出発していた同じ旅行社のツアー参加者の一人が高山病にかかり意識不明の状態になったという知らせであった。Nサンはたぶん現地の夏の臨時駐在事務所の責任者だったのではないか。このころから周りの人間の注意がきつくなった。もちろん、しつこいくらいに彼らは十分我々に高山病の恐ろしさと、その対策について説明し実行を促してきた。少なくとも我々のツアーについて言えば、彼らに落ち度を見つけることは困難と言ってよいだろう。もちろん、他のツアーについてもそれは同様であったにちがいない。
 でもそれは現実に起きると言うことだ。更に言えば、この旅行社を選択した理由がそこにあった。他の旅行社に比べて高山病への配慮が一番と思われたからだ。ともかく、現地スタッフのNさんの姿を我々は帰国するその日を含め見ることはなかった。我々が彼の姿を再び見たのは、帰国の日に見せてもらった現地の新聞の記事の中にある写真だった。写真もタブロイドほどある大きなもので、日本人が高原病(=高山病)になり、チャーター便で香港まで行ったという内容だ。何故香港かというと、高山病が悪化すると脳や肺に水腫ができるらしいのだが、それらの措置ができる所は香港しかないのだそうだ。そしてその旅行者は幸いにも一命を取り留め、障害も奇跡的にも殆ど残らずに我々の帰国前後にはおそらく退院できるだろうということだった。

 (おしっこが出なくなる! 手先がしびれてくる!)
 第二の現実は、我々のツアーの中で起こった。もちろん、我々は旅行者からのしつこいほどの対策を聞かされ、現実に血中の酸素濃度の低地でのそれとの比較割合を測定し、感覚だけでない対応を常に取っていたにもかかわらずなのだ。つまりは、高山病はチベットでは誰しもかかりうる病気であり、そしてその対応をきちんとすればよいがそうでなければ命と引き替えになる状況にあるということだ。高山病の兆候(のおそらくはその一つ)は手の痺れに始まる。我々の一行からも、ヤムドク湖を眺望するカンパラ峠でその言葉を聞いた。その人は男性で20代後半の方だったと思う。私たちはそうしたことに幸いにもならなかったので、それがどの様な意味をもつのかはその時は定かではなかった。ただ、それが高地障害に寄る物だろう事は容易に想像が付くだけだった。しかしながら、その時点つまりそこは標高4750メートルの今回の旅の最高地点だったが、それ以前に我々は高山病になった一行を目撃していたのだ。まだカンパラ峠への道を登りはじめて間もなく一人の男性(前者よりも若いと思われる)が、トイレ休憩を添乗していたUさんに申し出た。その時Uさんはまだ大丈夫だなと思ったそうだ。無知だがその時我々は車酔いになったものと思っていた。2回目に彼が停車を命じたとき、奇妙な行動を目にした。彼は自分の尻の肉を叩いているのだ。あとから知ったことだが、これは小便が出なくなって、そうしていたらしい。Uさんの決断は早かった。運転手に対向のバスを止めてもらい、彼の荷物を持って二人で下山していった。我々の心細さよりも、彼の命を選択したわけだ。(写真は我々が今回の旅で経験した最高地点カンパラ峠4750メートルから見たヤムドク湖・・・この風景を見られなかった彼はさぞかし残念なことだろうが・・・)
 実はカンパラ峠へラサから至るには、空港へ至る同じ道を引き返し川を渡り、その時に空港とは反対の方向を選ぶ。つまりその橋が一番の低地なのだ。乗せてもらったバスも方角が違う方へ行くこともあったが、その一番の低地で彼を降ろし、バスのガイドに応援の車を依頼したということだ。Uさんによれば、尿が出なくなったこととともに、かれの首筋を触っても彼が感じなくなっていたということだ。そして震えながら立っていたそうだ。Uさんは自信も高山病になった経験のある(なんとネパールという高地の生まれ)人だったので、その経験がものをいったと思う。医者に連れていってもダメなのだそうだ。高山病は医者が治す病気ではないとも言っていた。橋に至り、まず暖かい場所に位置させ、大量の水を飲ませた。高山病の初期症状の今ひとつは痺れとともに手が紫になっていくことだという。そうした状態が、比較的低地と温かさで回復してから、ラサへ戻し更に水を飲むことを命じたらしい。彼は夕食時には顔を揃えるほどに元気になっていた。
 このことは、いかにその危険性と対処を熟知したスタッフが控えているかと言うことが、観光旅行気分丸出し出来ている人々にとっては重要なことだということを教えているだろう。

 
2.我々の高山病対策

 (馴らし登山)
 考えてみれば、我々は1組の年輩の(たいそう元気な)夫婦の次に年齢を重ねていたわけだが、体力に自信はなかった分、慎重だったと思う。高山病の話を聞くとともに、実際に日本で手軽に登れる3000メートル級の高所を約1週間前に経験して、慣らし運転をした。木曽駒ヶ岳はあと何十メートルかで3000メートルになろうとする山だが、2千数百メートルまでロープウェイが通じている。したがって、その頂まで比較的楽に登山が可能だ。特に則は高山ではしては行けない昼寝をそこでしたが、まったく問題はなかった。こうした体慣らしが、実際にどの程度高山病に効果的かはわからないが、5000メートルを超える高地に行く場合は、一度富士山登山などを勧めている文章もあるくらいだから、少なくとも毒にはならなかったはずだ。

 (水の十分な摂取)
 第二にはいわれたように沢山の水を飲んだ。これすらしておけば高山病にはかからないという信仰に近いものがあった。利用した旅行社ではノルバディックスの服用を勧めたが、手に入らなかったこともあるが、ラサにいる限り飲み続けるようにというその指示はそれが利尿作用が強いということで、腎臓に弱点を持つ順さんには疑問に思えたので、服用はしなかった。しかしその代わり水の摂取は最初の頃は水分摂取量を計算するなどの注意を怠らなかった。特に最初の夜は、二人のどちらかが目を覚ましても水とトイレと深呼吸を相手に促した。またチベットでは、ホテルの水道を沸かせば飲料してもよいと言うことだったので、様々なお茶にして飲めたので、飽きを生じることをある程度防げたと思う。また、チベットでも水だけでなく、いくつかの日本人にもあうような飲料水は得られている。緑茶(少し砂糖入りなのか甘い)やコーラのたぐいは手にはいる。

 (過呼吸)
 第三には、深呼吸。これはその前に志賀高原に行ったときから、習慣的に行った。口から深く吐いて、鼻から空気をいっぱいに取り入れるわけだ。これは山登りなどで使ったが、順の感じではかなり楽な呼吸法だという。ともかく慣れるように平地でも、気が付いた時にはその呼吸法を実行していた。
 確かに、血中酸素濃度を測定する旅行社が持参していた機械でも、深呼吸をすると見る見るうちに、その数値は改善する。したがって、あらゆる場面で深呼吸を実行することはかなり有効であったはずだと思う。ただつい忘れがちなので、我々の用に一月も前からいつもそっれを練習するようにしておくとよいのではないか。

 (健康チェック)
 第四は、健康のチェック。旅行社が用意している血中酸素濃度を測る器械はとうとう見つけ得なかったが、体温計と血圧計は持参し、朝晩に体調のチェックをした。やはり朝は睡眠を取ってしまうと言うことで、血圧も脈拍も高めに出た。酸素を十分に送ろうとすれば血圧を上げるかポンプの駆動を高めるしか方法はない。体がそのように反応しているわけだ。あまりにも高めの時は、血圧降下作用のある鎮痛剤を規定の半分服用した。ただしこのことは体によかったのかは定かではないし、偶然確かに我々はその降下の恩恵に浴したと思うが、それが万人に適用されうるものかも定かではないので推奨する訳ではない。

 ・・・私たちが高山病にならなかったのは、単なる偶然の幸運だったのかも知れない。いや、おそらくそうだろうと思う。多くは幸運のもたらしたものだろうが、上記のいくつかがその手助けをしただろう事もまた確信している。その多くは旅行社の指導のものであり、こうした指導を守ることが最低のラインだろうと思う。スタッフ等は経験が豊かなのだから、それに従う方が良いに決まっている。



3.電池も高山病??

 実は本文に書いたが、わたしたちは血圧計と体温計を持参していた。この両方とも旅行期間中におかしくなった。そればかりではないのだ、このたびの記録のアウトラインを書いていたポータブルのパソコンも充電池がおかしくなったのだ。いずれも電子がなくなった表示が出るのだ。しかし、たとえばパソコンだって十分に充電しておいたはずだった。予備電子で動き出したし、その後使わないときに再度充電したら使えたのだが、どうも電子も高山病になるらしい?!
 まぁ、それは冗談だが、どうもこの現象は一般的におこるものらしい。推定の話だが、現在の電池は化学電池だから、何らかの化学反応を利用している。そのコントロールをあの小さな中でやっているわけだが、化学反応であるからもちろん気圧との相関はある。沸点が低いなどはよく分っている現象だ。さて実際には、反応が起こりにくくなっているのか、起こりやすくなっているのか定かではないが、後者であるとすれば、過電流などの対応が必要になってくるのだろう。ただ現象を見ていると、その後電池交換の出来ない体温計が回復したところを見ると、前者のように思える。
 ともかく、予備の電池を用意する必要があることは確かだ。もちろんこの現象は低温によるものとは別物だ。チベットは秘境なのだ。電池の気も吸い取る?

戻る